すべての人に力がある

福祉の現場では、本当にいろんな人に出会います。

ゴミ屋敷、汚部屋の主も少なからずいます。

今かかわりを持っている方は、まさにゴミ屋敷化した部屋に住んで、髪もひげも伸び放題、洗濯機やふろ場にいくまでのスペースにもごみが堆積していて、ごみを踏んで移動するほかない状態です。洗濯したりお風呂に入るのがおっくうになるのもやむなし、という状況です。

その方は、考え方に特性がある方でしたが仕事もまじめにされてきて、ずっとそういうふうに暮らしてたわけではなくて、意欲が減退する出来事が重なって自暴自棄になってしまったと思われました。

担当ケースワーカーから、どうかかわっていいかわからないと相談された私は、「その人がなぜそうなってしまったのか、現在の状況だけでなくこの数年の状況変化を含めて理解しようとしてみませんか?」と話しました。どうかかわっていいかわからないと率直に伝えてもいいし、約束を守られないと信頼しようとしてもできないと、ケースワーカーも苦悩していることを伝えてもいいのではないかと話しました。

人を理解することは難しくて当たり前なので、自分の都合のいいように動いてもらおうというよりは、その人にとっていいと思われる提案と、制度の中でできることとできないことを説明し、「じゃあ、どうしましょうか?」と相手の価値観を確かめながら接点をさがすことで、何か状況が変わるかもしれないと思いました。

生活保護は保護費を出すのが仕事と思われがちですが、この担当ケースワーカーはその人が立ち直っていくための社会資源の活用と、関係機関や雇用先との関係づくりを優先して動いた結果、何かが伝わったのでしょうか、今日自宅に行ってみたら、ごみが少し片付いて、洗濯ものが干してあったそうです。

変化の兆しです!

そして担当ケースワーカーにとって大きな喜びであり報われたと感じる出来事です。

人の心を動かすのはいつも人の心です。もちろん、お金が人の心を動かすこともありますが、お金がなくなれば元に戻ります。

人が自分のために一生懸命になってくれたことは、ずっと心の支えになると思います。そのような対応をしてくれたケースワーカーに、私も報われました。

すべての人に力があると信じて、難しいケースもあきらめずに取り組む部下がいることに感謝です。

離婚後の生活の立て直しに生活保護はいかがでしょうか

この夏に出産とともに生活保護を申請された方がいます。

出産を機に生活保護を申請されるのはよくあります。安心して出産、育児に専念していただくにはいい選択だと思います。

とてもまじめなこのお母さんは、子どもが1歳になる前の4月に保育園に入園して復職したいと希望されています。子どもが1歳になってから入園する方が多いらしく、0歳児の枠は余裕があるようでホッとしました。私自身、シングルでの出産、育児でしたが、犬も2匹いて、もともと家に閉じこもるのが苦手なたちでしたので、0歳児での入園でした。育児を誰かとシェアできるのはありがたかったですね。

このお母さんに話を戻すと、家から3キロ以上離れた保育園と以前勤めていた職場に復職するには自動車が欲しいとのことで、いろいろ調べた結果、まず車の購入は誰かの支援がないと経済的に難しいことと、購入そのものを生活保護制度の中で認めた事例がないということで、かなり難しいという結論になりました。

まず、保育園は自転車で送迎している家庭もあることから、そもそも自動車は認めづらいということになりました。職場については、徒歩あるいは自転車で通勤できる類似の職場が自宅周辺に複数あり、求人もでているため、やはり現状は難しいのです。

よくよく話を聞くと、すぐに車が必要というわけではないとのこと。そこで段階的に生活保護がなくてもいい状態にするために、給料はいくら必要なのか、児童扶養手当が減額にならない所得額はいくらなのか、働き始めてどのくらいで税や保険料が上がるのか、等々調べていきましょうということに。

これはファイナンシャルプランニングの領域でもあります。これから1、2年のキャッシュフローが見えてくると、いつ生活保護がいらなくなり、最短で車がいつ買えるか見えてきます。そして、税や保険料の負担が増えるころまでに、どのように勤務時間を増やすといいかが計算できます。

そして、社保に加入して、しっかり保険料と年金を払い、保障を手厚くすることを約束しました。

がんばれ、お母さん!

精神的に不安定な人にとっての9連休

公務員業界は年末年始は9連休の長期休暇です。

しかし、生活保護や福祉制度を利用している方々にとっては、9日間窓口があかないことは不安ではないかと思っていました。

仕事納めの日、Yさんから電話がありました。昨日から幻聴があり、眠れず不安が増しているとの内容でした。これまでも不安が強くなると自殺企図がありました。

Yさんが自殺をほのめかすときは、自分は生きているに値しないという絶望感と誰かとつながっていたいという希望が合いまった感情が見え隠れしたものでした。

長い休暇を前に状況がかなり厳しいと判断し、まずは家庭訪問して状況を確認。状況はやはりよくありません。でもしばらく一緒に話をして「気分が変わりました」と言われたので緊急時の連絡先を渡しお暇しました。

そして、その日の夕方5時、Yさんから電話があり、「薬をたくさん飲んだ、生きていく望みがない、これから残りの1月分の薬も飲む」と。

入院できる病院を探しますが、引き受け先が見つからず、時間外になったことから当番病院のK病院に電話し、とりあえず受診することにし、Yさんと一緒に病院へ。この時、Yさんは薬を飲むことをとどまり待っていてくれました。そのため、病院で胃洗浄をする必要もなく、薬の乱用はあったけれども措置が必要というレベルではありませんでした。

営業時間中、無理だ無理だと受け入れを拒否られ続けて、時間外だと当番病院であっけなく入院決定。

精神科については、専門医不足、患者急増のため、新規の受診予約は1、2か月先が当たり前といわれていますが、本当に緊急性の高い場合はどうすればいいのでしょうか?

ちなみにYさんは、この数か月間、親しい男性と無理やり引き離され、友人からも交際を反対され、また精神疾患の治療でいい関係ができていたJ病院ともトラブルで転院を余儀なくされ、行き先もなかなか見つからず、訪問看護やヘルパーさんも辞めていき、本当に心から信頼していた人たちと切り離されています。もともと一人暮らしでしたが、この数か月は本当に孤独だったと思います。

世の中が年末年始の9連休で浮かれているようにテレビが何度も何度も放送します。それを見るYさんには正月に家族と会う予定もありません。

正月は自宅で迎えたいといって、入院したくないというYさん。でも自宅にYさん一人でおいておくことはどうしてもできず、正月に外出して一緒に初詣にいくことを約束して、病院を去りました。

正解はないのですが、正月を祝うことができない人もいることを覚えていたいと思います。

シングルマザーの優先順位

私は、シングルマザーです。非婚のシングルマザーというと、ちょっとびっくりされます。

今は非婚のシングルマザーも増えてますが、息子を生んだ頃は全シングルマザーの1割くらいが非婚という状況なので、「私、シングルマザーです」というと、たいてい離婚したんだろうなと思われてました。

話がそれましたが、私が息子を生む覚悟をしたときに、20年、つまり息子が成人するまでは私の人生の優先順位の一番は息子だということを決めました。息子が障害を持って生まれてきたら、仕事を辞めて生活保護を受けてでも息子の世話をすることを覚悟して生むことを決めました。

だから、息子が発達障害のグレーゾーンにあたるといわれた時も、息子の苦手なコミュニケーション能力の向上のために、小学校の通級指導教室に申し込み、放課後はコミュニケーションスクールに通うことを決めました。

通級指導教室もコミュニケーションスクールも送迎は保護者がやらないといけなかったので、時間単位で有給休暇をとったり、変則勤務にしてもらったり、3年くらいは時間もお金も息子に投資しました。

私はそれができる環境にあったのでできただけで、やりたくてもできない人が大半だと思います。残念ながら、そう簡単に子どもを理由に仕事の融通をつけることができないのが現実です。

なんでこんな話をするかというと、不登校の子どものいるシングルマザーの方が、ダブルワークで子どもと向き合う時間がない、けれども働かないわけにはいかない状況で困っていらっしゃるという話があったからです。

このお母さんは、比較的若いときに結婚、出産をされました。離婚した夫は給料を自分で使ってしまい生活費を入れなかったそうです。お母さんは中卒なので正規採用の求人があまりありません。家賃が高めの家に暮らし、ミニバンのローンはまだ残っています。消費者金融に借金もあります。

私には負のスパイラルにはまってしまっているように見えます。

いろいろ無理をしている部分を手放して、優先順位を整理することをお勧めしました。

お母さんに一番向き合ってほしいのは子どもさんのことです。不登校自体が問題ではなく、学校に行こうとすると体調が悪くなることや楽な方ににげてがまんができないところが、今後の成長の妨げになるかもしれないこと、そして専門家の手を借りて対応しないと時期を逸してしまう可能性があることを、お母さんに理解してほしいと思いました。

車にローンが残ってなければ、仕事をセーブして生活保護を利用して生活を立て直すことをお勧めするところです。お母さん自身、仕事を辞めて資格をとったり高卒の学歴を得たりすることも有意義だと思います。

生活保護制度では、働ける人はその能力に応じて働いてくださいというのですが、将来安定した収入が見込めるのであれば、働くことよりも資格取得を優先させることもできます。

一人親がすべてのことをやることはできないからこそ、優先順位をつけて選んでいかないと大事なことを見失ってしまいます。

子どもの時間は二度ととりもどせないものだから、生活保護をうけるのに戸惑いがあっても、あえて選択してほしいと思う今日この頃です。

支援の必要性に気づかない夫婦

 この2年ほど、地震で自宅を失った方の伴走支援をしています。具体的には仮設住宅からの転居支援ですが、新しく建設するのか中古を買うのか、あるいは借りるのか、大きくはこの3つに分類されますが、決めて行動に移すまでに時間がかかる方がけっこういらっしゃいます。

 私たちが支援している方々は、費用面だけでなく家族内の課題、社会性の課題、病気や障害など複層的な課題をもっている方で、何を優先して手を付けていくのか、どのような支援策を活用するのかを整理提案して、一緒に手続きを進めていくことになります。

 自分だけではできないから他人の手をかりようと思ってくださると私たちも進めやすいのですが、支援を拒否されると退去期限までに行き先が用意できない事態になってしまいます。

 伴走支援をしている中で、とあるご夫婦の抱えている課題がかなり深刻であることがわかってきました。仮設住宅で家賃が不要であることを考えれば、夫の収入で生活が十分にできる世帯と思われましたが、給料前にはお金が底をつきスマホのクレジット機能で買い物をする状態でした。まずは家計の見直しということで、無駄を見つけようということになったのですが、コンビニでの買い物やアルコール、たばこ、そして高額な光熱水費は減らすことができませんでした。

 収入をあげるために妻がパート就労を始めても赤字は変わりません。むしろ車をローンで購入したことでさらに家計は悪化です。でも、この車は家族にとって明るい未来のシンボルでもあるのです。そして、妻が見つけた転居先の家賃は、世帯収入に見合うものではありません。そのことを説明しても気持ちは変わらず、将来的な破綻が目に見えているのに何も手を施すことができません。

 なぜなら、夫婦ともに判断能力が十分ではないようなのです。夫は、自分は外で働くのが役割でそれ以外は妻の役割といって家計は妻に任せっぱなし、一緒に考えることをしてくれません。妻はおそらく軽度の知的障害と人格障害をもっていらっしゃると思われ、都合の悪いことは回避します。

 支援者側としては、妻の障害年金の受給と障がい者枠での就労がこの夫婦の安定的な生活の基盤になるとして療育手帳の申請と年金請求について説明しますが、妻は自分に障害があることは認められません。おそらくは過去に嫌な思い出があり障がい者であることを受け止められないのだと思います。

 転居された後も連絡を取ろうとしましたが拒否的で、しばらく間が空いて訪問したところ、ドアの郵便差込口にチラシやフリーペーパーがたまってました。駐車場に車はなく、ドアの向こうから応答もありません。事務所に帰って電話をかけると「使用されてない」とのアナウンス。嫌な予感がします。

 もしかしたらかなり厳しい状況なのかもしれません。しかしこれは本人たちに理解してもらういい機会になるかもしれません。週明けに関係者と連絡をとり、再度しっかり支援の連携をつくらないといけないようです。

 家族にキーパーソンがいないケースでは支援がなかなか進みません。

公務員の価値観

公務員生活も30年目に突入して、ようやくわかることもあります。

 

それは、いろんな分野でいろんな視点に立って仕事をして、共通する価値観です。

 

言い方はイマイチですが一番よく口に上るのは「問題なし」という言葉。「適正」という意味なのですが、いろんな角度から見て問題がないことが大切なようです。

 

若いときは、多少間違っていても成果をあげればいいじゃんと思っていたこともありましたが、なんせ、公務員はちょっとの間違いでもやり玉に挙げられることがあるので、やはり間違った方法で成果をあげてもダメなんですよね。

 

災害があるたびに、行政が悪い、行政の責任と言われますが、行政は前例や過去の実績から「問題なし」と判断してやっていることが多いので、想定外の災害には対応できてないことが多いです。そして想定外の災害に対応するには、執行部(いわゆる公務員)と議会(いわゆる政治家)のどちらにも先見の明のある人が複数必要ですが、今の公務員と政治家の選び方にそういう視点はありません、残念ながら。

 

また、行政の対応方針が「公平」「公正」である以上、「迅速」にはできません。被害の全容が見えないと対応すべき線引き(この言い方も嫌いですが、公平にするためには必要)ができないのです。日頃、「問題なし」の価値観で仕事している人に非常時だから特別な対応をしろといわれても、やはりそれで「問題なし」なのかを確認する癖が発動しますよ。

 

災害時の対応が得意なのは、イベント業務をやったことのある公務員です。イベントは非常時ですから、本番で「問題なし」を発動させていては問題続出です。目の前のトラブル、クレームをどう治めてゴールに向かうか、災害対応とイベントには同質のものがあります。そういう柔軟なリーダーがいる公務員チームは災害時に活躍します。残念ながらそういうリーダーは少ないですけどね。

 

コストをかけずに災害に強い日本にする方法として、公務員の質の転換はあると思います。

 

患者を選ぶ

 「患者を選ぶ」というと「医者としてあるまじき行為」と思われる方もいると思うのですが、最近は医療機関が患者さんを選ばれているなと思うことがちょいちょいあります。福祉施設もしかりです。経営という側面からも職員管理という側面からも、負荷が大きすぎる患者さん、利用者さんは断りたいのはよくわかります。

 

 負荷が大きすぎるとは、手がかかるともいえるし、要求が多いともいえるでしょう。順番を待つとか、自分に与えられた時間の範囲でとか、とりあえず相談してみて考えるとか、大人として相手のことを考えた行動ができない人が増えてる気がします。

 

 一つは、地震の後いろんな支援者に手厚く接してもらい、スタンダードが上がってしまったこともあると思います。「被災者は多少わがままいってもいい」と周りが許してしまったわけです。もちろん大人のわきまえがある人は、それが一時的なことと理解して、日常的なスタンダードに戻りますが、地震前から不満がある人は居心地のいいところから離れたがれません。

 

 医療機関では、地震からしばらく患者増で大変だったと聞きました。しばらくの期間、被災者は医療費の負担なしで治療できるということで、「たいしたこと」なくても受診する人が増えたとか。現場のドクターや看護師さんたちは、本来治療すべき患者さんたちに充てられる時間が減ってジレンマを抱えていたそうです。

 

 特に精神科の受診者が増えて、手がかかる患者さんの受け入れを渋られるところも多いです。精神科は特に患者さんとドクターの信頼関係がないと診療が進まないという部分が大きく、また患者さんが「病気のため」なのかドクターの指示に従いづらい方がけっこうな数いらっしゃいます。新規受け入れの際、これまで受診した病院での治療歴を聞かれることがありますが、トラブルで治療中断している患者さんは新規で受け入れてもらえる病院を探すのも大変!

 

 患者さんが自分で治療の選択肢を減らしていることを自覚せずに、医者が悪いと考え出すと、もう負のループをぐるぐる回り始めるしかありません。

 

 こうなったら、その現実を患者さんがちゃんと受け止めて、行動を改善してもらうしかありません。どこの医療機関もたくさんの患者さんを治療しているわけで、一人の患者さんに手間暇かけているわけにもいかないし、こういう患者さんは治療者をメンタルダウンに追い込んでしまうこともあり、歓迎されない患者だと自分でわかってもらうしかないのかと思っています。

 

 とある県の精神センターの職員さんと話していて、「そういう人は失敗を繰り返し社会的制裁をうけることで自分自身を振り返り改善していってもらう、というのも一つの治療だと思う」と言っていただき、ちょっとスッキリしました。なにもかも病気のせいにして、治療してくれない医療機関の悪口をいうことで責任転嫁していることに気づいてもらうことも、私たちの仕事なんでしょうね。